かっこよく撮ってねの呪縛



 河村:まっちゃんは主にファッション撮ってるでしょ?


 松原:でもファションカメラマンって感じじゃないかも。


 河村:まっちゃんにとってのファッションカメラマンってなに?


 松原:もうちょっとバキッとしてて流行に敏感な人たち。


 河村:そこからはずれたいと(笑)?


 松原:うん。うまく言えないけど多分私はそっちじゃない気がしてる。
    つい最近までずっと、男っぽい写真を撮らないといけない!
    って思って仕事してきた気がしててね。


 河村:男っぽい写真?


 松原:うん。当時可愛らしい高校生とか
    素人さんをモデルに起用するのが流行ってて、
    例えば当時の私がこの撮影はプロのモデルでやりたいって
    言ってもあんまり聞いてもらえなくて。


 河村:へえ。


 松原:それはいいんだけど、素人の可愛らしい男の子を前に
    「かっこよく撮ってね」ってみんな言うの。


 河村:クライアントとか?


 松原:うん。それもだけど男のスタイリストさんとか。
    どう見ても可愛らしい顔した素人を前に、
    「かっこよく撮ってね、かっこよく撮ってね」って
    心の中で(無理やろーッ!)って思ってた。


 河村:でも「かっこよく撮ってね」ってみんな言わない?
    大した意味なく言うんじゃない?


 松原:女性のスタイリストさんはそういうことあんまり言わない。
    わざわざ「かっこよく撮ってね」って何度も何度も言われると
    かっこいいの定義をすごく考えてしまって。


 河村:女らしく撮らないでって言われてるのと同じことだと。


 松原:そうそう。たぶん、優しく可愛らしく撮らないでって
    言いたいのかなってちょっとずつ分かってきて。
    それならもっと男臭いカメラマンに頼めばいいのに、
    私女だしなんかそういうのが次第に
    コンプレックスになっていって
    ほんとはメンズはあんまりやりたくなかったし
    あの頃なんで私に仕事が来てたかわからない。


 河村:まっちゃんの見た目も可愛らしかったしね。


 松原:それでGINZAの編集長が中島さんになった頃とか、
    強い女性像を打ち出してて、
    ちょっとヘンテコな女の人とかさ色んな女性像を
    受け入れてくれる雑誌があって、
    なんとなくそれまでの反動でなのか、
    強い女!みたいな方向にいってた気がする。
    絶対に女っぽい感じにしないって。
    まあ、それでも女が出てたかとは思うけど。


 河村:今は違うと。


 松原:なんかそういう気持ちが急に消えてきて。


 河村:それっていつごろから?


 松原:16年くらいな気がする。
    二人目の子供を生んでからなんかちょっと
    女らしく撮ろうかなって。娘を産んでから。


 河村:ほんとうについ最近なんだね。


 松原:そうそう、やっとなんか女らしく撮りたいって思って。
    自分は女だし、それでいいんじゃないかって。




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