自分をつくるもの



 松原:よく女の人は出産で感性が変わるとか言うでしょ?
    なんかそれは嫌だなってずっと思ってたんだけど。


 河村:でもすごいまっちゃんらしくていいなって思う。
    カメラはいつから始めたんだっけ?


 松原:アシスタントとして就いた時が26歳。
    別に写真学校とかは行ってなくて、
    スタジオマンとして働きながら勉強して
    その後専属で師匠に就いたから
    トータル5年くらい修行してるかな。


 河村:この間年上のライターさんと
    話したときに、まっちゃんの写真を最初に見たのが、
    スタイリストの堀江直子さんがまだアシスタントの
    ときだったって。


 松原:うんうん。


 河村:堀江さんの作品撮りしたのを見てたら
    一体この写真は誰が撮ったの?ってなってたらしい。


 松原:当時はよくスタイリストとかヘアメイクとか
    それぞれアシスタント同士が集まって
    作品撮りしてて、それを見たんだと思う。
    その頃ってもちろん師匠の影響を受けてたし、
    恐れ多いけどそういう雰囲気も少し出てたからかも。


 河村:あーそうなのかな。
    でも私は横でその話を聞いてて、
    そうやって業界の先輩たちに
    印象づけてきたんだと思って納得しちゃった。


 松原:いやいや。言っていい?
    私ずっと「下手くそだしー、下手くそだしー」
    って思ってたよ。


 河村:周りの反応に気づいてなかった?


 松原:全然!下手くそだしー!って思ってた。
    ライティングのラの字もわからなかったし、
    もっと上手なスタジオマンいっぱいいたし、
    とにかく自信がなくて。
    でも私、当時嘘ついて分かるふりして(笑)。


 河村:でも、スタジオマンだった頃に、
    師匠からアシスタントにならないかって
    誘われるってすごいと思うんだけど。


 松原:全然なんで誘われたのか今だにわからない。
    アシスタントもね、最初は自信なくて
    でも少しずつ、あれ?私でも大丈夫かもしれないって
    思うようになって。
    あ、でも今の人は修行とか嫌かもしれないね。
    当時は他にバイトしながらアシスタントして、
    バイト中、いつ仕事の電話かかってきても
    いいように常に電話を近くに置いてたんだけど、
    かかってきても相手にバイト中だってことは
    悟られないようにしてたな。


 河村:わー。やっぱり覚悟できてるわ。
    私だったらつい、バイト中なんでって言っちゃいそう。
    バイトしてる場合じゃないのに(笑)。


 松原:あ、バイト行くのは全然いいと思う。
    働かないといけないのは私も経験でわかってて。
    ただわざわざ先輩や仕事相手に「バイト中なんで」って
    気を使わせるんじゃなくて、
    もうそれは何もなかったようにする人たちの方が
    なんとなく仕事がうまくいってる気がしてる。


 河村:そういう気遣いってさ、まっちゃんは誰かに
    教えてもらったの?


 松原:たぶん上の人を見ながら感覚でやってたんじゃない?
    でも結局そういう人がうまくいくんじゃないかと。


 河村:これだけ時代が変わっても?


 松原:うーん。やっぱり長続きしないと思う。
    そういう細かい気遣いとかで人は形成されてくし。
    仕事ができる人ってやっぱりそういうのが
    あるのかなって今になって周りを見てすごく感じてる。


 河村:でもなんかとりあえず、それっぽいよね。


 松原:とりあえずそれっぽいって(笑)、いいね。
    売れっ子カメラマンの事務所は風邪引いてたら、
    ハーブティー出てくるって言ってたし。


 河村:そういうところ?(笑)


 松原:やっぱり「あ、風邪気味なのかな?」とか、
    そういう小さな所を感じ取れるかどうかが大事っぽい。


 河村:なるほどねー!やっぱりそれかも。




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