何も言わない人




 他のお店のイベントに参加すると、自分の店では気づけないことも、

 見えることがあって、それはいつも参加してよかったと思う。

 例えば、レジが混んでいて待っているお客様の顔の表情を

 じっくり見れるのも、他のお店のイベントだからだ。

 自分の店だと、お客様がイライラして待っている!となって

 しーちゃんと二人あわあわと無駄に焦る。

 意外と楽しそうに待っている人も中にはいるんだと分かったし、

 待ってる時でさえ、ちょっと楽しいと思ってもらえるような

 店作りをすることも大事なのだという発見がある。


 そして今回一番心に残ったこと。

 二日目に出す予定だった大人気のお菓子が

 何かの手違いで初日に店頭に出てしまっていたらしい。

 そして完売してしまった。

 そのことがインスタに上がったのは二日目の朝だったかと思う。

 
 うずらさんも私もみんな気づいてなくて

 そのことが分かってみんなで慌てていたとき、

 私は朝一番に並んでいた女の子が、

 店内をうろうろなんとなく悩んでいる様子だったので

 聞いてみると、目当てにしていたお菓子がなくてどうしようかと

 思っていたと話してくれた。「あ、でも全然大丈夫です!」と

 優しく笑って、他の商品を買ってくれた。

 他のお客さんにも同じように聞くとそうだと言う。

 「お菓子のことは残念だけど、花束も欲しかったから!」

 と笑いながら。

 私は何も言ってこない人たちの声をもっと聞きたいと思った。

 私から聞くまで何も言わない、というか言えないお客さんは

 普段の私だ。今の東京で、客が店に素直な気持ちや意見が

 言えるかっていうとすぐクレームだとか面倒臭い顔をされる

 のがオチで黙っておく、これ以上イライラするのは嫌だから。

 家に帰ってその分、SNSに書くという人はいるだろうけど、

 今回出会ったのはそういう人たちではない。

 世の中には恐ろしいほど理不尽なクレーマーがいることも、

 人間のやることには必ず!ミスや失敗がついてくるのも、

 自分が働く側の経験として分かってくれている人たち。

 責任を取るとかじゃなく、(本当の意味での責任って

 取れないことがほとんどだから)、

 土下座するとか、坊主にすることでも絶対ないことも、

 分かっていてくれるのが伝わってくる人たち。

 私はそんな愛すべき人にこそ、また絶対に店に来てもらいたい。


 今、東京で店をやってる個人店の場合、

 続けるだけ赤字かギリギリとんとん、

 たいてい家賃と人件費を払うだけで精一杯で

 お金のためだけにやってる人を私は知らない。

 うちなんて、いっそやめてどこかでバイトした方が

 いくらか儲かるんじゃないかと思うけど(笑)、

 それでも大手にはできない、私たちだけの強みがあるとすれば、

 店とお客さんがその時だけでも、

 心と心を通わせる事が出来る希望があるところ、

 その一点だけなのかもしれないから。




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