まる聞こえの部屋



 多分24、5歳、性欲もたっぷりあって恋愛も仕事も

 悩みはつきない年齢だったころ、当たると有名だった

 アメ村にある小さな占いの部屋に行った。

 その時のことはいろいろ問題ありそうで書く勇気がない。

 占いの結果を完全に忘れて20年近く経ったある日、

 日本やイギリス今までいろんな占いに行ったけど、

 あの大阪のおばちゃんが言ってたことは全部当たってると気づいた。

 面白半分、42歳になった私はその占い師のおばちゃんに

 もう一度会いに行くことにした。

 年齢的にもう亡くなってるかもしれない不安があったけど、

 お店は同じ場所にあり、むしろそこだけ全然変わってなくて

 タイムスリップしたみたいな感覚になる。


 薄暗い雑居ビルにある小さな部屋に入ると、

 正面の壁にはゴム製の蜘蛛がいっぱい張り付いてある蜘蛛の糸。

 角にはうさぎの着ぐるみの頭があって、何故かミヤネ屋の

 宮根さんの若い頃の顔だけ切り取った大きな写真が貼ってある。

 そのほかには忍者とかキリンとか目の大きなくまとか、

 いろんな着ぐるみの頭が積み上げられた衣装の山も変わらない。

 唯一、カメレオン(本物)だけが見当たらなかった。

 占ってもらってる最中、おばちゃんが時々そのカメレオンを

 抱き上げてぺろぺろとキスしていたのは忘れられない。

 待合い室には、

 (と言っても占いをしているテーブルとはつい立て1枚で

 分けられているので相談者の会話は他のお客さんにまる聞こえ。)

 10代の女の子が4人いて、小さなテーブルには

 ハイチュウとかカントリーマームの個包装のお菓子が山のように

 あって自由に食べていいことになってるいるのも、

 お持ち帰りはだめなのも変わってなかった。


 順番を待ってる間、つい立ての向こうから聞こえてくる

 会話を悪いなあと思いながらも聞いてしまう。

 会社の社長らしき年配の女性の相談は

 これから雇う従業員について。これは書けない内容で(笑)。

 待ってる間にちょっと話した可愛らしい女子高生の二人は、

 予想どおり恋愛だった。ここでは一人は以前占ってもらった子で

 今日は付き添い、ってパターンが当たり前な感じだった。


 メモ用紙に生年月日と漢字で好きな人の名前を書くのに、

 好きな男子の名前の漢字も生年月日も分からないらしく

 必死であれこれ想像していたけど最後は諦めて

 「ひらがなでもいいですか?」と言った彼女に

 「可能性ある人書いてや」とおばちゃんが言った(笑)。

 結局好きな人との相性を占うことが難しいから、

 好きではないけど名前の漢字も誕生日も知ってる

 男友達との相性をみてもらって、「友達やな」と言われていた。

 そりゃそうだわ(笑)。

 可能性の少なそうな恋愛相談は早々に打ち切られてしまって

 将来何の仕事に就きたいのかおばちゃんからの質問に。

 「お笑いが好きなんで、お笑い関係か、商品開発かどっちか。」

 さすが大阪だと思った。


 「お笑い?漫才やりたいの?」

 「いや、裏方とかでいいんで。」

 「やめとき。吉本なんか見ててもな、あれ裏方状況最悪やね。

 だから商品開発の方がええと思うわ。会社入って企画したりな。

 そういうのはええと思うで。」

 「あー。他の人って他に何質問してるんですか?将来とか?」

 ここで付き添いの友達が恋愛系に戻そうと割って入る。

 「今見たって当たらへんわ。遠い。」

 「じゃあ性格とか?」

 「性格なんか見たってしゃーないやん(笑)。」

 「あー。じゃあ今年受験なんですけど受かるかどうかわかります?」

 「あかん。それは一、二時間かかるねん。それはもう天王星とか金星とかな

 位置ちゃんと割り出さなあかんねん。コンピューターでやること

 手で書いてやるからな、そんなんあかんわ。将来30才で結婚はできる。

 それまではちょろちょろ遊んどき。

 はよ結婚したら三角関係離婚するわ。

 10代はあんまり恋愛ないし勉強やな。

 はい、ほな2000円な。お菓子好きなん持って帰り。」


 ずっと口を手で押さえていないとつい吹き出してしまう。

 笑いが込み上げてくるのはたぶん、

 長い東京くらしで聞き忘れていた本物の大阪弁と

 その独特な言葉と間合いのセンスのせいだ。

 私の文章だと全然伝わってなくて悔しいけれど、

 この怪しいカオスな空間の中では、ものすごい優しさの交換があって、

 高校生もおばちゃんもめちゃくちゃ響き合ってるのが

 つい立て越しに伝わってくる。

 インスタ映え確実の店内なのに、若い人たち誰も

 写メとか撮らないし、おばちゃんを敬う気持ちがちゃんとある

 のがわかる話し方で、超ピュアな愛に包まれた空間だった。

 いろんな人の悩みをみんなで聞いて、おばちゃんの答えに

 みんなで納得したり吹き出したりして、私もいつのまにか

 まだ10代の彼女たちが大人になってどんな人生を送るのか

 想像して応援したい気持ちでいっぱいになっていました。

 恐らくもうだいぶお年だと思うからのんびり続けてほしいけど、

 お客さんはその後も一切途切れることなくやってきて、

 なかなかトイレにも行けないような盛況ぶりだった。

 お気づきの通り、ほんとはもっと書きたい面白い話が

 あったのだけど、それはまたワークショップかスナックで

 機会があれば聞いてください(笑)。




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