汚い言葉(続き)




 そのコンビニには私が入る何年も前からずっと働いている男がいて

 私はセクハラとパワハラを受けていた。

 Mさんがいる時は、そんなことにならない。

 まだ若かった私は、何がセクハラでどれがパワハラなのか

 まったく分かってなかったから、

 ただ自分の働きがだめなんだろうと納得させていた。

 私は店長やMさんにそのことを相談したことはなかった。

 でもきっと大人たちは薄々知ってたんだと思う。

 店長たちがレジの奥にある私の履歴書をセクハラ男が持って帰らないように

 隠してくれた時にこういことが以前もあったんだと教えられた。


 ある日、Mさんがものすごく真面目な顔で、

 でもとても優しい目で言ってくれた宝物の言葉がある。

 「本来の太田さんはね、めちゃくちゃ強いはずだよ。

 あんな男のいじめに負けないはずなんだ。

 恥ずかしいとかかっこ悪いとか思わないでいいから、

 泣いても鼻水が出てもいいし、敬語なんて使わないで、

 あいつにふさわしい汚い言葉を使っていいから、

 嫌なことは嫌なんだって戦わないと。

 こんな小さな世界であんなしょぼい男の言いなりにならないで。

 これから向かってく世界には太田さんが想像もできないような

 汚い人間がいっぱいいるし、それは絶対に出会ってしまうからね、

 今、強くならないといけない。

 もし何かあったら、私があいつをボコボコにしてやるから、

 自分の言葉であいつをやっつけてきな。」



 私はあいまいな返事をしただけだったけど、

 Mさんの言葉を何度も心の中で思い出しながら1週間を過ごした。

 自分の中で何かがはじけたある時、Mさんがいない日。

 覚悟を決めて、Mさんからもらったお守りみたいな言葉を胸に、

 レジ待ちをしてるお客さんを無視して(笑)

 セクハラをしてくる男に向かって歩いていった。

 そしてレジに並んでるお客さんたちが、

 ドン引きするような汚い言葉で

 その男にNOって気持ちをぶつけまくった。

 人からどういう風に思われたいかは

 私にだってあるし、っていうか人より強くある気がしてた。

 でも、もうそんなことを気にしてる場合じゃない。

 私はMさんの言葉を無駄にしたくなくて、

 Mさんが応援してくれた気持ちに応えたいほうが強かった。

 涙も鼻水も全く出なかった。


 「あなたが小学校一年生の時に俺は六年生だったんだ!」

 汚い言葉を年上に向かって言うのがなぜだめかを、

 静岡出身で標準語を話すその男は叫んでる。

 急にその男が小さく見えてきて、私の口からは面白いように

 そいつを罵倒するための汚い言葉が溢れ出した。

 もしかしたらほんとに強い女なのかもしれない。

 最後、許して、許して〜って泣き出しそうだったのは

 セクハラ男の方だったから。

 静まり返った店内で、その後も時間まで働いて

 (翌日Mさんの仕事が少しでも楽になるためだけに)

 タイムカードを押して店を出た。


 自転車の鍵を外す手は震えていたし、

 家に帰る途中、自転車を漕いでるときには涙が出てきた。

 やっぱり男の人に物を言うのは怖かったのと、

 (とっさにレジ裏の包丁やカッターは隠しておいた )

 やってやった!という興奮が冷めないのと、

 次からどんな顔してその男と働けばいいのかとか、

 Mさんに今日のことを早く報告したい気持ち、

 いろんな感情で一杯になってめっちゃ泣けてきた。

 親には心配かけるし、ばれたらバイトは辞めさせられる。

 実際親には何も言わなかった。

 だけどお母さん、私は今日ひとつ大人になったんだよって

 誇らしい気持ちで帰宅したあの日を思い出す。


 Mさん、今もたくさんの猫に囲まれていますか?

 あの超〜優しかったバンドマンの年下の彼とはまだ付き合ってますか?

 私は当時のMさんの年齢をとうに超えましたが、

 なかなかMさんみたいにはなれてません。




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